ヤマンガラス



はしっこから、少し離れたところにある島に、
伝統を継ぐ野鍛冶、池村泰欣さんを訪ねた。
鉈、包丁、鍬、コテに至るまで、
すべて昔ながらの手作りだ。
注文に応えて、ひとつひとつ手打ちする。

池村鍛冶屋については、こちらの記事にくわしい。
→島で働く人々


私が手に入れたのは、ヤマンガラスと呼ばれる山刀。
昔は、馬具もこれひとつで作ったという。

池村さんは、製法、使い方、研ぎ方など、
とても親切に教えてくださった。

うっかりして、音声無しで撮影してしまったので、
1時間あまり、たっぷり聴いたお話は、
私の記憶の中にあるだけだ。

動画に映っているコンピュータは私のもので、
はしっこの島のおじいの所有物や、
資料館で撮影した古い道具を見せているところ。

これだけ手を掛けているのに、
ヤマンガラスは涙が出るほどの安さだった。
ス、と呼ばれるサヤも一緒に買った。

今度、ヤマンガラスを腰に下げて、森に行こう。
ゆうなの木も、アダンの茂みも、
ばっさばっさと切れるはず。

帰京

20091001.jpg

しばらくぶりに、東京に降り立った。
はしっこから中央へ。
飛行機を2回乗り継いで。
空港を通過するたびに、別の次元に入ったように感じる。

はしっこを発つ前、"育てる人"が、
手編みで作った匂い袋を持たせてくれた。
麻糸で編んだ小袋の中に、月桃の実が入っている。
その香りがいつもそばにあるように。

東京は、あらゆるものがピカピカしていた。
空港内のお店に入ると、
ていねいで、感じよくて、細やかな、
笑顔とサービスを受け取った。
あらゆることが考え尽くされ、訓練されている。
これが東京なんだなあ、と思い出した。

空港から電車に乗った。
乗車している人の表情は、
疲れ果てているか、歪んでいるか、あるいは、
すべての表情を消しているか、だった。

たぶん、さきほど笑顔だった店員さんも、
帰る時には、こんな顔になるのだろう。
これが東京なんだなあ、と思い出した。

東京には、2~3週間滞在する予定。
雑務を少し片付ける。

無防備

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東京での日々は、少しばかり重くて痛い。
それなりに覚悟はしていたけれど、
その重力に慣れるまで、時間がかかる。

はしっこの島では、ずいぶん無防備になっていた。
そのことが、東京にいるとよくわかる。

はしっこの家には、鍵がない。
いつも、窓や戸は開けっぱなし。
突然、人や動物が、ひょいと現れる。

最初はすこしとまどうけれど、
そういうのに慣れてしまうと、
ずいぶん気持ちが軽くなる。

よれよれしていても、
どろどろに汚れていても、
誰も気にしない。
それがそうであることを、
そのまま晒していい。

東京に来て、ひさしぶりに傘をさした。
街を行き交う人々を眺める。
いろいろな思いを受信する。
分断と、孤独と、防衛と、攻撃と、虚無と。

ぎりぎりのところに立つ人々に、
はしっこの風が届くといいな、
と思っている。

東京にいる間も、はしっこの風景を載せようと思う。
そうすることで、風が通る気がするから。

馬の人、に顔を拭いてもらうハル。
この無防備な表情。

空を分ける

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防空識別圏という、
空を分けるラインがあるらしい。

領海とか領空に関係した、
国防上の用語だそうだ

この空を分けるライン、実は、
はしっこの島をふたつに分断している。
島の西半分は、
お隣の国の防空識別圏に含まれているのだとか。
日本の中にあるのに。
戦後、GHQが適当にやった仕事のおかげで、
こうなったらしい。

私が暮らす、はしっこの家の上空も、
日本ではない圏に入る。
そういう奇妙な領域にいる。

多様性

20091008.jpg

東京にいると、はしっこの島の人々のユニークさを、
ひしひしと感じる。

アーティスティック、とか、
クリエイティブ、とか、
マニアック、とか、
そういう文化的な意味ではなく、
もっと本質的に、
人として、在り方が変わっている。

普通だけれどかなり個性的な人、と、
あるラインを超えちゃっている人、という、
分類があるとしたら、間違いなく後者だろう。

島の中にいると、へー、そういう人なんだねー、
ぐらいの感覚だし、
本人たちはみな、自分をフツーだと思っていたりもするが、
そんなことはない。


ところで、私は、
多様性を受け入れる場所でなければ、
どうしても生きられない人間である。

集団としての同質性を強いられるような場所では、
本当に、息ができなくなる。

そうなると、いわゆる、"田舎暮らし"はむずかしい。
やはり都会で暮らす、ということになる。

多様性を求めて、これまで、
いろいろな都会で日々を送ってきた。

トーキョー、
ニューヨーク、ロンドン、パリ、
ブダペスト、イスタンブール、
香港、シンガポール、デリー、カトマンドゥ、
サンパウロ、ブエノスアイレス。

そういう人種のるつぼ、
みたいなところが楽だっだ。

と思っていたのだが、
はしっこまで来ると、どうも様子が違う。

不思議なことに、都会にいた時より、
関係性が、もっと多様になっている。

自分とは違う世界観、年代、暮らしぶりの人々と、
加えて、馬や犬や猫や諸々の生き物たちと、
身体感覚で、日々、無防備に接している。
なんというか、いろいろ開けっ放しなので。

そして、都会にいたら、
関わらなかったであろう人々の、
物語に深く触れるようになる。
よりプリミティブなかたちで。

都会には膨大な数の人々がいる。
いろいろな価値観も暮らしぶりもある。
でも、実際に自分が深く関わる人、となると、
意外に限定されていたような気がする。
自分とどこか共通する世界観、年代、
立ち位置の人々としか関わらない。
あとは閉じている。

現在のはしっこの島の住人は1600人ほど、
その5分の1が、外部からの流入者だという。
そして、歴史的には、実に多種多様な人々が、
やってきては去っていく、という場所でもあった。
とにかく、境界は、そういう特質を持っている。

写真は、文章とはまったく関係なくて、
アリシの兄弟犬、アイスです。

モノ

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はしっこの島は、
モノに対する感覚が、都会と違う。

所有の境界がゆるやかだ。

ひとつのモノが、人から人へ、
ぐるぐる回っている。

必要なものがあったら、声をかけてみると、
そういえば使ってないのがある、てな感じで、
誰かが、"貸して"くれたりする。
特に期限はなく。
そして、そもそもの持ち主を、
誰も知らなかったりする。

それはきっと、離島だから、
物理的にモノが入ってきにくい、
そして、出ていきにくい、
という条件が関係しているのだろう。

もちろん、インターネットや通販があるので、
欲しいと思えば、たいていのモノを、
取り寄せることができる。
でも、送料が高かったり、日数がかかったり、
離島はけっこう面倒なのだ。

つまり、モノが外から入ってくるためには、
ちょっとしたエネルギーが必要になる。

そこに逡巡が生まれる。

そのうちだんだん面倒になってきて、
ま、いいや、と方向がそれる。
それは、とても幸運なことだ。

反対に、都会では、
"モノを買わない"でいることに、
相当のエネルギーが必要になる。

どこを向いても、消費欲求を刺激する仕掛けがある。
いつでも簡単に、モノを買うことができる。
もし、シンプルな暮らしをしようと思ったら、
その圧力に抵抗する"意志"を持たないといけない。
うかうかしてると、つい買ってしまう。

人間は、楽な方に流れる生き物だ。
モノを手に入れる方が楽か。
モノを手に入れない方が楽か。
結果として現れる差は大きい。

ちなみに、馬は、
目の前に草があるなら、それで満足。
モノは何もいらない、と思う。

左手

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物事は、たいてい思うようにいかないものだ。
それを象徴するのが、右手首の故障だった。

最初は、フォークで草を運んでいる時に、
違和感を感じる程度だった。
筋力が弱いために、関節に負荷がかかったのだろう。
たぶん腱鞘炎というもの。
大きな怪我ではないので、
心配はしていなかったのだけれど、
これが、なかなか治らない。

だんだん痛みに変わり、
ついには、お箸を使うことさえできなくなった。

それからというもの、
ちょっとした動作でも、おそるおそる。
右利きの私にとっては、
あらゆる動きに影響が出るわけで、
なんだか、とっても、
スローな感じで動くようになってしまった。

果ては、右足を馬に踏まれたり、
右側の歯に不具合が出たり、
とにかく、体の右側に故障が集中。
これだけはっきりメッセージを出されると、
ヒトはいやでも考える。

自分がどれだけ、
"右"に依存して、生きてきたか。

で、今さらのようだけど、
日常の動作を、できるだけ、
左手でやってみることにした。

できない…。
笑ってしまうほど…。

だが、この体感が、
いろいろなことを考させてくれるのだ。

できない、ということについて。
バランス、というものについて。
左脳と右脳の差異、について。

私は、左手のヒトになった。
しばらくの間、
動作が奇妙に見えるかもしれない。

なにかおもしろいことがわかったら、
また報告します。

写真は、子馬のたてがみ。
こういうふわふわしたものが、
ちょっと恋しくなったので。

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