ヤポネシア序説

ヤポネシア序説ヤポネシア序説

(1977/02/24)
島尾敏夫編
創樹社


「逆さ地図」というものがあると知った。
富山県が発行した『環日本海諸国図』がそれで、
南北の視点を逆にしている。
東京は、てっぺんの方にある。
(興味のある方は検索してみてください)

sakasatizu.jpg
こちらは、Google Earthで同じようにキャプチャーした地図

こうして見ると、
日本海はまるで大きな湖のよう。
古来、国家という枠組みとは別の形で、
大陸からヒトやモノが往き来し、
混じり合っただろう様子が、体感的に伝わってくる。

逆さ地図、たしかにおもしろい着想だ。
で、私が暮らす、はしっこの島を探してみると…。

あ、やっぱり、ぎりぎりのところにある。
かろうじて見えるぐらい。

なんだか楽しくなった。
大陸とつながる日本、という枠組みすら、
はしっこの島には届かない気がして。

もともと私は、
地球儀をいろいろな角度に回しながら、
眺めるのが好きである。
頭を自由にしてくれるから。

そして、日本人であること、
そう位置づけられることに、
違和感がある。

生まれ育った文化に対する敬意は持っている。
でも、日本の社会が醸すある種の質感には、
どうしてもなじめない。

たとえば、日本の田舎で暮らすことが、
私にはむずかしい。
訪れるだけなら美しく豊かに見える里山も、
どこかその奥に、
閉じた固い感覚があるように感じられて、
息苦しくなってしまうのだった。

その私が、はしっこの島では、
楽に息をしている。
開かれる、流れる、感覚がある。

未来の暮らし方を考える時、
この感覚がとても重要だ、と直観しているのだけれど、
それがどういうものなのか、うまく言葉にできなかった。

そして、南島地域の文献を調べている時、
島尾敏雄さんの『ヤポネシア序説』に出会った。

一読して、にっこり。

さすが文学者だけあって、
表現がすばらしい。
柔らかいのに核心を突いている。

たとえば。
ちょっと長くなるけれど引用してみよう。

「もしかしたら、奄美には日本の持っているもうひとつの顔をさぐる手がかりがあるのではないか。頭から押さえつけて浸透するものではなく、足うらの方からはいあがってくる生活の根のようなもの。この島々のあたりは大陸からのうろこに覆われることがうすく、土と海のにおいを残していて、大陸の抑圧を受けることが浅かったのではないか。」──『ヤポネシア序説 ヤポネシアの根っこ』より

「これは、非常に抽象的な言い方ですが、日本の中には、ある固さがあると、私は感じます。なにか「こつん」と固いものがある。日本人全体に硬化したものがあって、それはどうも日本人というものを狭くしているようです。そういう「固さ」が南に来ると、あまり感じられない。南島に住んでいる人たちに接してみて、やわらかな、なにかを感ずるわけです。」──『ヤポネシア序説 私の見た奄美』より

ヤポネシアとは、日本を、
太平洋に位置する島々の連なりとしてとらえる視点。
奄美に暮らした作家、島尾敏雄氏による造語だ。

はしっこの島は、奄美よりさらに遠くにあるけれど、
ヤポネシアという感覚は、
日本という枠組みより、ずっと親しい。

本書は、ヤポネシアを巡って繰り広げられた、
エッセイ、講話、論文、対談などを一冊にまとめたもの。
島尾氏が提唱したヤポネシア論を俯瞰することができる。

ずいぶん古い本なので、
図書館で見るか、古書店で入手するしかないのが残念だ。
機会があったら、ぜひ手に取ってみてください。

ヤポネシア、逆さ地図、モンゴロイド、環太平洋…。
視点を変えれば、
世界はいつでも新しい姿を見せてくれる。

最近、私が気に入っているのは、
こういう視点の地球である。

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